Carlos Santana が愛用した、Gibson Les Paul

*SANTANA「LOTUS」ダイジェスト版LP ジャケット写真より
*SANTANA「LOTUS」ダイジェスト版LP ジャケット写真より

初来日に持参したことで、ひと頃は、Carlos Santana の愛器の象徴だった、Gibson Les Paul Model。

YAMAHA SG仏陀 や PRS など、後々ギターが変遷しても、サンタナ・サウンドは、このギターが奏でる艶やかなサウンドが、源になっているのではないでしょうか?

よく見ると、ノーマルの Les Paul Standard には見られない数々の特徴を備えた、Carlos Santana の愛用した Les Paul Model について綴ってみたいと思います。

※ウドー音楽事務所50周年記念展示が2019年 3/1(金)

 ~3/31(日)の間、有楽町マルイ8Fで開催され幸運に

 も実器を確認する機会を得ました。永年の願望が叶い

 感無量です。この場を借りてお礼申し上げます。

1970年代のプレイヤー誌等では 58年製スタンダードと紹介されることも多いのですが、形状は明らかに再生産形で、ヘッドが大形化した、69年以降の特徴を有しています。

バックのマホガニーが多層形(パンケーキ)のため、70年以降のモデルである可能性が高く、ゴールドトップ・デラックスのリフィニッシュ説には賛同できません。

トップのサンバーストだけではなく、バックまでチェリーフィニッシュであることから、ま新しいギターをフル・リフィニッシュする価値があったかどうかが、疑問だからです。

仮に Deluxe であったとしても、チェリーのモデルではなかったのでしょうか?

 

初出は1971年の「フィルモア最後の日」の頃あたりからと思われます。

ピックガードも外されておらず、デフォルトはこの形状と見るのが妥当でしょう。

ただし、最大の特徴であるブラックのマウントリング(エスカッション)も確認できることから、このギターの出自の特定を、難しいものにしています。

 

定説では、Les Paul Deluxe のハムバッカー・コンバート(改造器)となっていますが、それを鵜呑みにできない特徴を数点挙げてみます。

 

1.ハムバッカーPUの取付位置と、マウントリングのフィット具合が自然で、コンバート

  器にありがちな、PUの取付位置や角度。ボディトップへの適合の不自然さ(スティー

  ブ・ルカサーの56年等)が見られない。

  ※当時シスコにはカミモト氏という日系人のスゴ腕リペアマンがおり、彼の手による

   ハムバッカー・コンバートの可能性も否定できない。

 

2.当初からヘッドの Les Paul Model デカールがなく、ロッドカバーに入っている。

  後年はヘッドにスリ・チンモイの写真が貼られることになる。

  パーツの構成につじつまが合っていて、でき過ぎている。

  Les Paul Deluxe を改造した場合、Al DiMeola のように、大抵はここまで整合性に

  こだわらず、ロッドカバーは元の “Deluxe” のままである。

 

以上のことから、マウントリングは Les Paul Custom から。ハムバッカーは、SGや ES-335 等のナンバードを流用し、ギブソンが当時のラインのパーツを使って組んだ、特製品ではないか?という見方を、私はしています。

この謎は、ウドーに寄贈・保管されている現物を一度見学すれば明白なだけに、その機会を熱望しています。

 

この Les Paul Model は、Carlos にとって結構なお気に入りだった様子で、70年代後半から80年代半ばまで、SG仏陀の予備器として常に待機しており、SG天女やSG-2000 があまりステージに現れなかったこととは、対照的でした。

※YAMAHAを使い始めてからはストラップを共用しているためか、Les Paul を弾くときの

 ポジションがロータスの時期より低くなっていることが特徴です。欧米人は身長の割に

 手足が長いため、こうしたことができてしまうのが羨ましいですね。

 

音源で確定的なのは、ブートを除けば「フィルモア最後の日」と「ロータスの伝説」。

バディ・マイルスとのライブは、アルバムが後日の再録物なので、当日と機材まで同じならそれと言えますが、断言はできません。

 

いずれにしても私は、この Les Paul Model がオールドではないことは当時から知っていましたし、それ故にオールドの絶対的な信仰者とならずに今日に至っています。

オールドの良さを認めないわけではありませんが、オールドでなければ良い演奏ができない、良い音が得られないということは、絶対にあり得ません。

Carlos は常に新しいギターを最前線に投じ、サウンドで勝負し続けていたのです。

ウドー音楽事務所50周年記念展示で、ついに本物に会えました!

上記の太字部を書いた時点では寄贈されたギター等は社宝に値する貴重品なだけに、現物の御開帳などは限られた関係者以外には叶わないだろうと、半ば諦めの心境でうらめしく綴ったことを記憶していました。

しかしタイトルの展示が行われることを知った時は喜びと同時に半信半疑でした。

もう私の3月のスケジュールは埋まっており、どこにも有楽町へ赴く時間は無いと思われましたが、最終日に近い 3/29(金)の午前中のみ通院の前に入れられそうだったので、なんとかなるだろうと強引に決行!

当日の肌寒い空気を吹き飛ばすような、久々に熱い気持ちになれました。

ありました!昔のコンサートで舞台そでに待機していたのを遠目に見たことはあっても、こんなに間近での本物は初めてです。

ちなみに右へ、スティーブ・ルカサー、

ジェフ・ベック、エリック・クラプトンの錚々たる寄贈ギターが並んでいます。

いずれ劣らず私の敬愛するギタリストなのでじっくりと拝見させていただきました。

今回はテーマが “サンタナのレスポール”

なので、他はまた別の機会に…m(_ _)m

遂に対面。感動です。1971年のフィルモア最後の日で目にした(映画ですが)ギターが歴戦のステージを経て今、目の前にあるということにでしょうか。

1973年の初来日公演は深夜にTV放映され、それを視たことでサンタナ・ミュージックに開眼しました。

そのステージもこのギターがメインで使われました。

音源は「ロータスの伝説」に残されています。

メインギターは Gibson L6-S → YAMAHA 仏陀SGと変遷しましたが、このギターはずっと後年までステージで待機していました。如何に Carlos Santana の信頼が厚く、またタフなギターであったことでしょう。

メインギターの基幹が PRSギターに変ったことで、ギブソン系ギターは揃って引退となったようです。

※スタンドへの立て方だけはなんとかならんかなぁと、思わず「直させて」と声が出掛り

 ましたが、スタッフ以外は触れない(当たり前ですが)ので諦めました(苦笑)。

典型的な再生産レス・ポールの仕様である「ラージヘッド」。69年以降の形状です。

ペグはグローバー製に換装されています。

このギターの特徴はヘッド中央に貼られているはずの Les Paul Model のデカールが当初から無く、代りにトラスロッドカバーへの刻印で表現されており、他には見られない仕様がカスタムメイド説の根拠です。

このロッドカバーへの刻印も SGシェイプの Les Paul Model に見られますが、このギターの刻印はそれよりひとまわり大きいので、これもワンオフの証しでしょうか?

ボディにも70年代初期の特徴が現れています。写真にも記載しましたが、

1.トップがメイプル材3ピースで、トップを形成する膨らんだアーチ加工も緩やか。

2.バックのマホガニー材が、中央部にメイプル材をサンドした通称 “パンケーキ” 。

3.バインディングのカッタウェイ部のみが厚くなってメイプル材を隠すような仕様。

加えて Carlos Santana の愛器だった特徴として、メイプル材3ピースをプライ(接合)した合わせ目の位置が当時の写真と完全に符合しますので、間違いなくこのギターですね。

塗装(フィニッシュ)については「フィルモア最後の日」や、日本公演時(ロータスの伝説収録)より全体に褪せた感じというよりチェリーサンバーストの赤みと風合いが失われているため、ボディトップについては再塗装(リフィニッシュ)されているように感じます。

さてPU(ピックアップ)については換装されているようで、フロント(ネック側)にゼブラが付いている姿は初めて見ました。

それもアジャスタブル側がクリームボビンの “リバースゼブラ” です。解説ではセイモア・ダンカン製らしいとあります。

私にとって重要なのは、PUキャビティのザグリ(加工)が元からハムバッカーサイズなのか、ミニハムバッカーサイズだったのを後加工したものかだったのですが、現物を穴の開くほど注視した結果、元からハムバッカーサイズで製造されたものと、結論付けました。写真だとそこまで写しきれなかったというか、フラッシュ撮影するところまで気が回りませんでしたが、まぁなんとか加工の様子がお分かりいただけると思います。

リア(ブリッジ側)はスタンダードなダブルブラックのオープン・ハムバッカーです。

それにしてもこのギターは、登場から引退まで終始ブラックのマウントリングで通してきたところが個性的ですね。※)

Les Paul Standard のマウントリング色はヴィンテージから現行までクリームが標準なのですが、このギターが作られた時期にはクリームのマウントリングの在庫が無くブラックの Les Paul Custom 用で代用したのではないかと私は推測しています。

※)実は一時期だけ、70年代後半にクリームのマウントリングに換装されていたことがありました。その時はピックアップも同時に DiMarzio Super Distortion に換装され、まるで Al DiMeola の愛器を彷彿させる仕様が特徴的でした。実際に Al DiMeola とのセッションでは、Al DiMeola ご本人が使用しました。プレイヤー別冊 The GuitarⅠ で、クリームマウントリング時代の写真を見ることができます。

このギターを紹介するキャプションで、出展はプレイヤー誌となっています。概ね私の記述どおりですが、このギターを「Les Paul Deluxe」と特定しているところにちがいというか、見解の相違がありますね。

また「1970's」という年代表現についても決して誤りではないのですが、ギターの仕様的に70年代というと、1975年以降に採用されたメイプル材ネックの仕様+ナッシュビル・チェーン・Oマチックブリッジの装備を連想させてしまうように思います。

ここは「Early 1970's」として欲しかったなぁとは、思い入れ故の細かさでしょうか(笑)。

パンケーキボディに代表される量産仕様に片足を突っ込んではいますが、まだまだヴィンテージ仕様といえる CMI Gibson の風格を感じさせられる1本ですね。

何回か「このギターが奏でる甘く艶やかなサンタナサウンドのルーツ」という表現をしていますが、デビューから 2nd.アルバム「ABRAXAS」までの SG Special では官能的ではありましたが、やや線の細いサウンドだったのに対し、3rd.アルバム「SANTANAⅢ」以降はこのギターでは無いにしても、Les Paul のハムバッカーと思われる甘さと太さを感じるサウンドに変化しています。

更に1973年の来日公演の時期には、遂に Mesa Boogie アンプの使用が始まり、冒頭の「甘く艶やかなサンタナサウンド」の完成形となります。また Les Paul は22フレットであるため、フロントPUの位置が24フレットになる Gibson L6-S → YAMAHA 仏陀SG → PRS に比べて 2フレット分ヘッド寄りにあることも、このギターの「甘く艶やかなサウンド」を特徴づける重要なポイントになっていると考えられます。